Saturday, December 21, 2013

norman rockwell museum / stockbridge

随分とご心配をかけましたが、先が見えないと思っていた喉の調子も徐々に良くなってきて、食べのを食べる時も苦しくなくなってきました。 ^^ よかった!
さて、朝から随分と雪の降る天候ですが、今日は車で一人旅行。 ストックブリッジまで行って、数年来の願望だったノーマン・ロックウェル美術館を訪ねて、そのままスプリングフィールドまで友達に会いに行くことに。
今まで一度も雪道を運転したことがなかったので、とりあえず掛けれる保険は全て掛けてレンタル。 高速道路では何度もスリップしている車を横目に、とにかく安全運転。
1時間ほどでノーマン・ロックウェルの暮らしていたストックブリッジに到着!
見る景色はどれも彼の作品の中に登場してくるような、素朴で温かみのある古きアメリカな風景。 まるで彼の作品の中に入り込んだかのような世界です。
ずりずりスリップしながら美術館に到着! こんなに興奮しながら美術館に来たのは初めてです。
あぁ! もう中に入るのが待ち切れない!!
"Aunt Ella Takes a Trip" 1942 for Ladies Home Journal story illustration
”彼の肉筆がぁぁ!!!” これが初めの感想。
彼はイラストレーターであると言われていますが、作品の全ては油絵で、自分は彼は立派なアメリカの世相を温かく、ユーモラスに描いた芸術家だと思います。
彼の仕事の代表であるサタデー・イヴニング・ポストの表紙画は、47年のキャリアで323枚も描いていますが、その他の表紙やイラストの仕事も多く、生涯には2000以上の作品を描いたそうです。 週7日、休まず働いていたそうで、作品すべては本人が描いていたそうなので、その画のアイディアと仕事の量を考えると、常人ではないですね。
残念なことに彼のスタジオは一度火災に見舞われて、それまでのほとんどの作品と、彼の作品制作に使った道具、ヨーロッパに旅行して集めた物など、全て灰と化してしまったそうです。
その為彼の現存している作品は少なく、そのほとんどは美術館などで恒久保存されていて、つい先日オークションに出た作品には、なんと45億円の値が付いています。
ここの美術館は世界で一番所有作品数が多いのですが、それでも展示されているのは30枚程度。
"Boy with Baby Carriage" 1916 for cover of The Saturday Evening Post
彼のキャリアの中で最も重要であろう作品がこれ!
1916年、まだ22歳だったロックウェルが、その当時、まだイラストレーターと言う仕事が花形だった時代、誰もが憧れていたサタデー・イヴニング・ポストの表紙を描いた初めての作品です。
当時まだフルカラー印刷は高価だった為に3色刷り。 その為彩色もシンプル。
ロックウェルの作品は、どれも日常生活の一部を切り取ったようで、人物の表情も大変豊か。 見ていてついつい微笑んでしまうような作品が多いですが、この作品でも、一人はポケットに哺乳瓶を挿して妹のベビーシッターを押し付けられて、その友達2人はそれを眺めつつ野球に行くと言う場面ですが、みんな表情がとっても豊か。
しかし、よく見るとどの子も顔が似ています。 これはイラストレーターとして走り始めのロックウェルが、お金の掛るモデルを何人も雇うことをせず、一人のモデルに全てのポーズを取らせたから。
この作品のモデルの名前はBilly Paine。 彼はロックウェルの意図するところをよく理解してポーズを取ってくれて、その後5年に渡って何度もモデルをしてもらっていますが、ある年の大晦日、家の屋根に登って、隣の家に移ろうとしていた際に落下。 不慮の事故でその命を失います。
後にロックウェルはモデルを長時間雇ってポーズをさせるのではなく、写真に撮って描くようになり、また、モデルにも一般の人を使うようになります。
"Visit a Family Doctor" 1947 for illustration for The Saturday Evening Post
この作品もそうして何枚も撮った写真を組み合わせて描かれているのですが、医師は実際の医者で、モデルは何人かの候補を使って写真を取っているので、実際にモデルをした人が描かれている作品を見た時に、自分ではないことで、そのモデルの気分を害したようなこともあったようです。
作品を眺めているだけでも色々なストーリーが想像できて、いつまででも見ていられます。
雑誌のイラストとは言っても随分と大きな作品で、立派な絵画です。
"The Gossips" 1948 for cover of The Saturday Evening Post 
噂話という題の、プッと吹き出してしまうこの作品。
 
モデルは実際のご近所さんで、真ん中辺りにはロックウェルの奥さん、右下の端にはロックウェル自身が登場していますが、この写真を取った際には誰にも作品の意図も題材も伝えられなかったそうで、とりあえずポーズを取らされたそうです。
まずは左上のおばちゃんが噂話を始めます。 それを聞いたおばちゃんがまた別の人にそれを伝えてという具合に、小さな町でどんどんと噂話が広まっていきます。 噂話には尾ひれが付いて行くものですが、右下でそれを聞かされたロックウェルは、最初に噂話を始めたおばさんに向かって文句を言って追求します。
なかなか風刺の効いた作品ですが、この噂話を始めたおばちゃん、実際にも噂話が大好きだったそうで、この作品を見た後に気分を害して、しばらく冷たい関係が続いたそうです。 ははは。
それをデッサンにするとこんな感じ。
第二次世界大戦中、戦債のキャンペーンに彼の4作品が使われました。 どれもThe Saturday Evening Postの為に描かれたものですが、どれも戦争を早く終結させたいと言う思いが溢れています。


この作品は、アトリエが火災に遭った際には印刷に出ていたそうで、被害から免れたそうです。
"Home for Christmas" 1955 Advertisement Sheaffer Pen Company
"Tiny Tim and Bob Cratchit" 1934 for cover of The Saturday Evening Post
物語、クリスマス・キャロルをテーマにした作品ですが、ロックウェルが幼少の頃から読み聞かされていた作品だったようです。

"Pepsi Cola Santa" 1966
ペプシ・コーラの宣伝用のサンタクロースですが、はじめロックウェルは等身大のサンタを描くことを拒否していたようですが、最後には了承。 このような看板になったのですが、ペプシ側はサンタの下半身がエルフの様だと言ったそうです。 自分は飛び跳ねているサンタがいかにも楽しそうで好きですけどね・・・。 っていうか、ロックウェルはコカ・コーラの作品もいくつか手掛けているし、面白いですね。
"Christman Trio" 1923 for cover of The Saturday Evening Post
はじめにも言った通り、当時フルカラー印刷は行われていなかったにもかかわらず、オリジナルの作品の見た目を良くしたいと言うことで、この作品には色を付けたそうです。
"Oh Boy" 1919 for cover of The Literary Digest
1919年は第一次世界大戦が終結して、兵士も故郷へ帰って来ている年。
自分が思うに描かれているのは、母と祖父母、年の離れた弟なのですが・・・ 奥さんと両親、息子かなぁ・・・? 前者の方がストーリーの温かみが増すように思えるのですが。。。
女の人達の背中から感激が溢れています。
これはThe Saturday Evening Postの構成。
"The Cheerleader" 1961 for cover of The Saturday Evening Post
この作品はアクリルで描かれていますが、大変ひょうきんな作品です。
"Save the Surface and You Save All" 1922
"Before the Shot" 1958 First Version of Saturday Evening Post cover
これはよく知られた作品ですが、この絵は実際には雑誌の表紙に使われず、もう一枚別に初めから描いたものが使用されました。 この作品自体も完成度は高いのに、なぜもう一枚初めから描いたのかは分からないそうです。
見ての通り、男の子がこれからお尻に注射を打たれるのですが、彼が覗き込んでいるのは医師の免許状。 これから注射を打つ医師が本物の医師なのか、信用できるのか確認していると言ったところでしょうか。
"The Lineman" 1948 for AT&T advertisement
電話会社の宣伝の為に描かれた作品ですが、かなり大きな作品で、とても宣伝用にだけ描かれたようには思えません。
 "Strictly a Sharpshooter" 1941 story illustration for American Magazine
これもなかなか大きな作品。 まるで客席に座っているかのような臨場感溢れる、興奮の一瞬を切り抜いたような作品。


"Home for Christmas" 1967 (Stockbridge Main Street ar Christmas) for Home for Christmas
この作品は12年もの間、少しずつ加筆して完成した作品で、彼の住んでいた、ここストックブリッジのクリスマスの様子を描いています。 実際この山の景色は見えないのですが、現在もメイン・ストリートへ行けば、このままの風景が眺められます。
この右側に描かれている建物、"The Red Lion Inn"と言う1773年創業の歴史あるホテルなのですが、描かれた当時は暖房設備がなく、夏だけの営業だったのでこの様に電気が消えています。
"Liberty Bell" 1976 for cover of American Artist
80歳を過ぎての作品ですが、この作品が彼の長い長いキャリアの最後の表紙画になります。 この2年後、1978年に素晴らしい作品の数々を残して84歳の生涯を終えます。
"Lemme see him, Huck! My, hi's pretty stiff!" 1936 for The Adventures of Tom Sawyer
トム・ソーヤーの冒険の為の挿絵。

彼の描いた全てのThe Saturday Evening Postのオリジナルの表紙が展示してあります。
自分も何作品かコレクションしていますが、いつかこんな風に飾りたい・・・。
"Golden Rule" 1961 for cover of Saturday Evening Post
ロックウェルはこの作品の中で、世界は一つであると言うことを伝えようとしたのだと思いますが、題名のGolden Ruleとは、あらゆる宗教に共通して述べられていることで、たとえ国や人種、宗教が違っても、みんなが“世界人”であると言うことですね。
美術館自体はそんなに大きくはないのですが、大好きな作品を目の前に、夢の様なひと時でした。 自分にとってはどの作品もモナリザ以上に感激で、聖地ですね。
さて、ここは先ほどのクリスマスの作品に出て来たストックブリッジのこじんまりとしたメイン・ストリート。

これが"The Red Lion Inn"。

長い歴史があるだけに、ロビーからとってもいい雰囲気。 丁度クリスマスなので、デコレーションもとっても素敵です。

ロビーには看板猫。 とってもなついていてカワイイ!

今も稼働していると思われるクラシックなエレベータ! まるで映画の世界の様。
最近は使われなくなったであろう電話ボックス。 この中はロックウェルのThe Saturday Evening Postのカヴァーが壁紙に。

こんな素敵なホテルでも一泊1万~1.5万円くらいで泊れるようですよ。 2、3泊してロックウェルの世界を満喫するのもいいかもしれないですね。
ロックウェルは生前に美術館に各35枚ずつサイン入りリトグラフを販売用に寄付しているのですが、ここにもその中の1枚がありました。
http://www.redlioninn.com/
午後にはそのままスプリングフィールドまで友達に会う為にドライブ。
雪の勢いがかなりひどくて、何度もずるずるとスリップ・・・。 日が暮れる頃には雪道運転にも随分と慣れて来ていました。 次の日はスッキリと晴れていい天気。 仕事があるのでアルバニーまで直帰。 この二日間で1週間分くらいのエネルギーを使ったような気がします・・・。
最近自分が好きなロックウェルの作品を1枚紹介。
"He's going to be taller than dad" 1939
今年5月にサザビーズのオークションに掛けられましたが、予測されていた落札額6千万を大きく上回って2.6億円で落札されました。
戦前に描かれたとはとても思えない鮮やかさ。 この場面を見ただけでも温かい家族の雰囲気が伝わって来るような気がします。
Upjohnという製薬会社のキャンペーン用に描かれて、1950年代には6枚セットでこの会社からリトグラフも発行されています。