Saturday, February 1, 2014

bleeding nose...

去年マンハッタンのすぐお隣、ブルックリンにオープンしたばかりのアリーナでの公演。
ビヨンセの旦那さん、Jay-Zがオーナーで、まだ内装もピッカピカ。
バックステージにはこんなちょっと洒落たサインも。
今週はツアー生活始まって以来の珍事のため、変則的な公演スケジュールに。 なんと金曜日にバスケットボールの試合が入った為、水曜日にオープンして木曜には全て撤収。 土曜日は一回ショーで、朝から再び全て搬入。
パフォーマーへの負担はそこまで大きくないのですが、搬入搬出をするクルーは大変。。。
と言うことで、金曜日はエキストラのお休み。 チャイナタウンにはこんなメイド・カフェまであったんですね・・・。 日本ではもう廃れて来てますよね??
一月の日本人会は、ブログでも時々登場してくるヴィレッジにある"The Spotted Pig"。 とりあえずシーズン始まってから毎月恒例化していますが、時々日本人同士で集まるのも楽しいね。

さて、夕方からは歯医者。 NYUの先生がインプラントが出来るかどうか見てくれる日だったのですが、調子がよさそうなのでこのまま手術をするとのこと。 かなり大掛かりな手術になることは予想されていたので、心の準備が・・・。
ドキドキドキドキする中麻酔注射大量投入。 まずは時間が掛るであろうと予測された左下から始めたのですが、意外に骨の残量も多く、そこまで時間がかからずに終了。 さて・・・3本も一度に治療する左上。 歯ぐきをザクザクメスで切られる感覚には閉口・・・。 ここからが大変でした。 随分と骨が溶けていたのと、鼻の下の骨も上へ押し上げたりしないといけなかったので、上唇の下を切られて、そこから鼻骨下の骨移植・・・。 もう全ての記憶を抹消したいくらい大変でした。
2時間後、全てが終わった時には全身グッタリ・・・。 先生が綺麗に出来たと言ってくれたのが救いなものの、そのまま治療台に乗ったまま朝まで休ませて欲しいくらいでした。
今後の治療方針や高額な支払いをカードで切ったら、夜はブルックリンでなほちゃんに髪を切ってもらう予定だったので、直前に大きな手術をしたにもかかわらず満員のメトロに乗ってサロンへ。
あまり話もしないようにと言われていたものの、切ってもらってる間は話もするし・・・。 ホテルに帰ったら疲労困憊。 即行痛み止めと抗生物質を投入してベッドへ。
次の日の土曜日は一回ショー。 夕方までゆっくりして体を回復させなきゃとは思いながらも、まともな食事も出来ないし、朝から鼻血がたら~っ・・・。 鼻血が出たのなんて20年振りくらい・・・。 鼻の骨の手術もしていたので、これは予想されてたこと。 “こんな状態でショーなんて出来るの中なぁ・・・“
とりあえず午後から練習へ。 顔の腫れはそこまでではないものの、唇も口の中かなり縫われているので口があんまり動かない・・・。 氷に乗ってスピンを始めた途端に鼻血のスプリンクラー・・・。 なんでこんなになってまで休まないのか自分でも分かりませんが、鼻にティッシュを詰めて練習続行。
周りの何人から今日は休むべきだとは言われたし、自分もあんなに大変な手術の24時間後にショーをするなんて無茶だとは分かっていたものの。。。結局ショーやりました。 セリフを言わないといけないのに口が痛くて開けれないし、ピノキオの際も付け鼻の下にティッシュを詰めてなんとか滑り切りました。 かなり無理をしてしまいました。
そのせいかどうか、月曜日には顔左半分が随分と腫れてしまって結構後悔。。。

さて、みんなはトレントンに移動した月曜日、自分はそのままマンハッタンへ残りました。
あまりに歯の状態が不安だったので、お昼過ぎに歯医者さんへ。 今は腫れているけど、心配しなくても大丈夫と言うことだったので一安心。 でも、見た目がひどいので、丁度外は-10℃くらいで寒いので、顔半分マフラーで隠してごまかしました。
3時からはメトロポリタン劇場のバックステージ・ツアーへ参加。 今まで一度はやってみようと思いつつ、今回やっと参加してみることにしました。
90分程度のツアーですが、舞台の様子、衣装、かつら、控室、リハーサル・ルームなど、あらゆる場所を案内してくれます。 とにかく、その規模の大きさには感嘆しました。

劇場での1週間の公演は大体4演目7公演。 演目によっては出演者も数百人。 幕ごとの舞台セットの変更などを考えたら、セット、コスチューム、かつらの量など半端ではありません。 舞台裏や袖、上下にはかなりのスペースがあって、6演目分のセットは保管できるそうです。 夜の公演がある前2時半までは新しいプロダクションのリハーサル(リハーサル期間6週間)も行われているので、舞台の設営、撤収が日に2回も行われていることになります。 バックステージ・クルーの数は100人近くにものぼって、24時間稼働しているそうです。 衣装はそれを着るキャストの体型が常に違うために、ジッパーなどは使わず、全てフックとマジックテープを使うそうです。 主役のかつらは全て本物の髪の毛を使っていて、その金額たるや凄いそうです。
それだけの壮大な規模の劇場。 イタリアの伝統ある劇場でも、その支出の多さに、行政も支援しきれないと言う記事を読んだことがありますが、ここは世界の中心NY。 チケットのセールスだけでは支出の半分しかまかなえないそうで、残りの半分は全て寄付! 毎年6つくらいの新しいプロダクションがオープンしますが、1つのショーをオープンさせるのに掛る費用が2,3億円。
公演前、今日月曜日の自分がこれから見る演目"Rusalka"の主演女優、ソプラノ界のスターRenee Flemingの控室にも入りましたが、この内装が驚くほど貧相・・・。 オープン1960年代当時のままなのか、日本の田舎のしなびたビジネスホテルの様な感じ・・・。 部屋の電話はリンリンベルだし、窓のブラインドは壊れてるし、カーペットも30年は交換していないであろう感じ・・・。 しかし、ここの部屋に入ることはスターにしか叶わない夢の部屋。
メイクも衣装の着替えもこの部屋でするそうで、全てのスタッフは劇場が提供するそうです。
いや・・・とにかく規模が違います。

さて、長くなりますが、これからがオペラの感想。
夜は先ほども言ったスターRenee Flemingの"Rusalka"を観ました。
Rusalka / Antonin Dvorak
Conductor / Yannick Nexet-Seguin
Rusalka / Renee Fleming
The Prince /  Pitor Beczala
Water Gnome / John Relyea

ルサルカはドヴォルザークの唯一知られたオペラですが、ストーリーはこれをもとにアンデルセンが人魚姫を書いただけあってそっくり。 違うのは最後とっても悲しい結末を迎えること。
深い深い森の奥の湖に住むニンフのルサルカ。 ある日そこへ狩りに来るプリンスに恋をして、魔法使いのジェジババに人間の姿にしてくれるように頼みます。 ジェジババは望みを叶える条件として、人間の姿になった時には言葉を話せなくこと、恋が叶わなかった際にはプリンスと共に湖の底に沈むことをルサルカに要求します。 要件を飲んだルサルカはプリンスと無事で会い、そのまま城へ戻って行きます。
結婚式の際も口をきかないルサルカにプリンスは“なんで君は自分に対してそんなに冷たいんだ?”と不満を漏らし、その場に来ていた別の国の王女に心移りをします。 ルサルカは悲嘆の中森の湖へ戻されます。
ジェジババは元の姿に戻るにはプリンスの血が必要だとナイフを渡してプリンスを殺すことを要求しますが、ルサルカはナイフを投げ出してそれを拒否。 ルサルカを探してプリンスが湖へやってきます。 自分の犯した罪の深さを聞かされて悲嘆にくれるプリンス。 プリンスはルサルカに口づけを求めますが、その口づけがプリンスの命を奪うものだと知っているルサルカは拒否。 プリンスは”自分の罪を背負って生きて行くよりは、その喜びの口付けで幸せの中で死ぬことを望む“とルサルカに訴えます。
ついにルサルカはプリンスの説得に負けプリンスに口づけをして、二人で深い湖の下に沈んで行きます。

あぁ…悲しいストーリー。。。
幕が開くと遠近法を用いた素晴らしいセット。 一瞬にして劇場は深い深い森の奥になりました。 
月明かりの中、湖のほとりの木の上から月に向かって歌います。

月、空に高く深く
あなたの光は遠くまで見通す
あなたは広い世界を旅する
そして人々の家の中も見通せる
私に彼のいる場所を教えて欲しい
伝えて、伝えて、誰が彼のことを待ているのか
月の光、消えないで。。消えないで。。

歌詞をかなり抜粋して訳すとこんな感じ。
この歌はサラ・ブライトマンのカヴァーしているのでよく知られていますが、やはりRenee Flemingが歌うと比べ物にならないですな・・・。 優しくクリーミーな声の彼女と、妖精のキャラクターがとってもマッチしていて、本当に自分が森の奥に迷い込んで、木の陰からルサルカが月に歌いかけているのを目撃してしまった感じ。 大変美しいシーンです。
最後のプリンスとルサルカのやり取りも大変劇的で、湖の上を歩くルサルカは大変妖艶。
全てを観終わると”ふ~~っ”と深いため息が出ました。

今年のオペラマラソンを締めくくるのは“蝶々夫人”!! これもずっと観たくて機会がなかったのですが、今回ついに観て来ました。
Madama Butterfly / Giacomo Puccini
Conductor / Philippe Auguin
Cio-Cio San / Amanda Echalaz
Suzuki / Elizabeth DeShong
Pinkerton / Tony Stevenson

ストーリーは語るまでもありませんが、自分が知識不足だったのは、蝶々夫人は結婚した際15歳だったこと、ピンカートンはもともと真剣な結婚ではなく、アメリカに戻れば破棄されるものだと思っていたと言うこと。
プッチーニは”さくらさくら”を始め、日本のメロディーをふんだんに取り込んでいて、随分と日本のことをちゃんと理解して作ったんだなぁと感心。
この舞台で素晴らしかったのが演出。 
幕が開くと静寂と漆塗りの黒の様な、一面黒の舞台。 真ん中が横一線に開いて行って真っ赤なスクリーンが出て来ます。 その赤のスクリーンを背に着物姿の女の人がすーっと現れて日本舞踊の様に舞います。
とにかく、どのシーンも素晴らしい演出だったのですが、そんな演出効果のせいか、オペラを観ていて初めて涙が出ました。 それは最後の蝶々夫人の自害するシーンではなく、結婚式後の初夜、ピンカートンと蝶々夫人がデュエットをするシーン。
漆黒の中にたたずみ歌う二人に何万という蝶が降り注いできます。 幾重にもなった蝶のカーテンも同時に降りて来て、まるで夢の様な世界。 その漆黒の世界に白い行燈が時には星に、時には飛び石の明かりに変化しながら動きます。 大変に素晴らしい演出です。
全ての場面設定は移動する障子によって表現されているのですが、最もインテンスな最後のシーン。 
心穏やかに新しいピンカートンのアメリカ婦人と面会し、死を覚悟した蝶々夫人。 最後に残るのは広く真っ黒な舞台に障子が二枚。 下がっておくように言って出て行くスズキの後ろ姿に抱きつく蝶々夫人。 障子に手をかけてスーッと開くと、二面とも袖へ消えて行きます。
掛け寄る子供に外で遊ぶよう目隠しをして去らせると、懐刀を首にたてます。 とたんに背後の扇子が金に光って赤の帯が舞台斜めに走ります。 以上を察したピンカートンが現れ、悲劇の中幕が下ります。
こんなに効果的な演出もなかなかないですよね。 鳥肌が立ちます。
これまた大変素晴らしい舞台でした。

来シーズンは再びイギリスのロイヤルオペラに通えるかな? まだまだ楽しみはいっぱい!
あ、ちなみに今日は金曜日ですが、顔の腫れはほとんど分からないくらい治まって来ました。^^

2 comments:

Chiaki said...

読んでいるだけで凄く痛そうなんですけれど……(>_<。)
腫れがひいてきたようで良かったです。
私も今治療中の歯があってツラいんですが、これくらいで不平を言っていてはバチが当たると思い直しました。

ルサルカの話は初めて知りました。
アンデルセンの人魚姫のモデルだったんですね。
ひとりで泡になって消えるより、心中エンドの方がまだいくらか救いがあるように思うのは私だけでしょうか。
ディズニーのリトルマーメイドがハッピーエンドだと知った時はカルチャーショックを受けました。

color of the city said...

なかなか大変な手術でした・・・。 無理して次の日も滑ったのは後から考えても失敗でしたが、ま、それくらいでは休めないのが自分の性分。

ルサルカ、自分も今回初めて知りました。 しかし本当に幻想的な美しい話で、演出も素晴らしかったせいか、ストーリーに引き込まれました。